有限会社蔦屋漆器店(輪島市河井町)

輪島塗のプロデューサー

輪島塗の塗師屋(ぬしや)として木や漆(うるし)と向き合う蔦屋漆器店の大工素也(だいく・もとや)さんにお話をうかがいました。

――ガラス張りのお店のようなものを想像していたのですが、店構えが民家の並びに溶け込んでいたのが意外でした。どのようなお仕事をされているのでしょうか。
大工素也
(以下、大工):普通のお家のように見えますよね。蔦屋漆器店はお店なのですが、お客さんの多くはお寺の関係者なんです。江戸末期に創業し、私で6代目になります。当時から曹洞宗大本山總持寺(そうじじ・現在の輪島市門前町にある總持寺祖院)に仏具や、さまざまな備品を納めてきました。曽祖父の代になると本山の機能は神奈川県の鶴見へ移りましたが、今も曹洞宗をはじめとした全国の寺院とのお付き合いが続いています。


――お寺からの注文がほとんどとは珍しいですね。塗師屋というお仕事も特徴があるそうですね。
大工
:はい。輪島塗は工程ごとに細かく仕事が分かれています。塗師屋というのはいわゆるプロデューサーのような役割で、お客さんがほしいものを聞き取り、適した材料や得意な職人を割り当てて完成させる専門家です。お客さんと職人の橋渡しをするわけですね。


――職人を指揮していくわけですね。そんなお仕事があるとは知りませんでした。どのような注文があるのでしょうか
大工
:お寺の道具は大量生産されているわけではありませんので、僧侶が使いやすいように大きさや長さを決めて作らせることが多いです。特徴としては蒔絵の模様が繊細であったり、曲線を描く独特な形をしていたりします。自分のお寺にあったものを使いたいという要望もありますし、先代が使っていた道具を直してほしいという注文にも答えていますよ。

荒々しさが人気に


――全国のお寺に輪島塗の道具があるとは知りませんでした。聞きたいことがたくさんありますが、能登ヒバのことを聞きに来たのでした。大工さんはもちろん能登ヒバを使われますよね
大工
:はい。指物(さしもの:板材を組み合わせて作られる箱状の家具や小物)には最適な木です。箱型のものを作るときにはほとんどすべてというくらい能登ヒバの木をつかいます。お寺の道具では法事に出すお重などは引き合いが多いです。普段は住職とお話しをすることが多いのですが、話しているうちに住職の奥さまが能登ヒバの器を気に入るということがよくあります。輪島塗ではありませんが、能登ヒバを手で裂いた「へぎ板」も扱っています。作家さんに頼まれて制作を始めたのですが、ねじれる荒々しい木の特徴を活かした外見が好評ですね。

能登ヒバのへぎ板


――荒々しさを提案するのは新しい試みだなと思いました。これから能登ヒバをどのように発信していきたいでしょうか
大工
:木があることで仕事ができていると思っているのでなにか注文するのもおこがましいです。ただ、もっと有名になってほしいですね。いま世の中では能登ヒバでいろいろなものづくりをする人が増えていますから、いずれ実を結んでいってほしいなと思います。輪島塗の業界も木が届かなければみんな困ってしまいますからね。

――ありがとうございました