伝統・文化
輪島塗における能登ヒバの役割
輪島塗は能登半島輪島市で作られる漆器で、文化庁から重要無形文化財の指定を受ける日本有数の伝統工芸品です。この輪島塗の発展には、近隣にアテをはじめ良質な木材が豊富にあったことが大きく寄与しました。輪島塗の木地(器の素地)には能登ヒバが多用されており、たとえば重箱やお盆などの板組みの木地(指物)や、薄い板を曲げて作る弁当箱などの曲げ物の木地に能登ヒバが使われています。また、漆を塗るための箸や刷毛(ヘラ)の材料にも能登ヒバの材が適しています。その耐水性・耐久性、抗菌性を活かして、輪島市内の漆箸工房などでは能登ヒバが木地材として重宝され、高い抗菌・防腐効果が認められています。

能登地方の祭りに見る能登ヒバ
能登半島では夏から秋にかけて各地でキリコ祭りが行われ、氏子たちが巨大な燈籠「キリコ」を担いで市街地を練り歩きます。キリコの構造には高い強度が求められるため、主要な柱や担ぎ棒には県木の能登ヒバが使われ、さらに力のかかる部分にはカシなどの樹種が組み合わされています。例えば珠洲市寺家町のキリコ祭りでは、高さ16.5m・重さ約4トンにも達する国内最大級のキリコが製作されますが、この巨大なキリコの木材にも能登ヒバが用いられています。輪島市で毎年晩夏に開かれる輪島大祭でも、豪華な漆塗りのキリコが巡行し、やはり能登ヒバの骨材が伝統を支えています。

伝統文化・自然とのつながり、文化財としての価値
能登ヒバはその強度と耐久性から能登地域の建築や道具づくりに幅広く活用され、地域文化の礎となってきました。近年では、能登半島における能登ヒバの人工林(「能登のアテ林業」)が2023年に林業遺産に登録されるなど、歴史的・文化的価値が再評価されています。また、能登半島の伝統工芸や祭礼行事(キリコ祭りなど)は「能登の里山里海」として世界農業遺産に認定されており、これらを支えてきた能登ヒバは地域の大切な文化資源と言えます。
- 石川県の県木「能登ヒバ(アテ)」として地域の象徴的存在
- 2023年に林業遺産に登録された「能登のアテ林業」において重要な役割を担う
- 世界農業遺産「能登の里山里海」に含まれる伝統工芸・祭礼(輪島塗やキリコ祭り)を支えた樹種
これらを通じて、能登ヒバは能登地方の豊かな自然と伝統文化を結びつける重要な存在であり、文化財的価値の高い地域資源として親しまれています。