性能・強度・加工性
強度
県産スギと比較した実証試験では、能登ヒバの曲げ強度・縦圧縮強度・せん断強度・めり込み強度がいずれも高いことが報告されています。例えば石川県試験では能登ヒバの曲げ強度下限値は約30 N/mm²(国交省基準値26.7)を示し、縦圧縮強度も約23 N/mm²(基準20.7)と評価されています。樹種別に見ると、
- 曲げ強度: 能登ヒバ 約30 N/mm²(実験値) vs スギ 約25 N/mm²(国交省基準)。
- 圧縮強度: 能登ヒバ 約23 N/mm² vs スギ 約19 N/mm²。
- 引張強度: 能登ヒバ 約17 N/mm² vs スギ 約16 N/mm²。
- ヤング率: 能登ヒバ 約9.8×10³ N/mm² vs スギ 約7.4×10³ N/mm²。
これら数値から、能登ヒバは設計強度が低い無等級材(国交省告示基準値)をクリアし、一般の住宅構造材として十分な強度を備えていることが分かります。ヒノキも曲げ強度や耐圧強度で国交省基準(曲げ26.7、圧縮20.7)を満たし、ヤング率は1.05×10⁴ N/mm²前後と高めです。総じて、能登ヒバ・ヒノキ・スギはいずれも国交省基準の建築用製材強度を上回りますが、能登ヒバは特に曲げ・圧縮に優れた値を示します。
<参考>
「いしかわの木」をつかう、植える、育てていく。これからのエコな家づくり。
(石川県農林水産部 森林管理課)
https://ishikawanoki.ishikawa-moriren.jp/panf.pdf
耐久性(耐腐朽性・耐蟻性・防虫性)
能登ヒバはヒノキチオールなどの抗菌成分を多く含むため、腐朽菌や害虫に対して極めて高い耐性を示します。特にシロアリに対する耐性は他樹種には見られないほど高く、ダニやゴキブリを寄せ付けないことも確認されています。また、水湿にも強いことから、輪島塗りの木地材や屋外の塀板にも利用されるなど、耐久性・防腐性が高いことで知られます。JAS(日本農林規格)の耐朽性区分では、能登ヒバ(ヒバ)、ヒノキ、スギはいずれも最上位のD1(耐朽性大)に分類されており、いずれも耐腐朽性・耐蟻性が高い木材です。
加工性(乾燥のしやすさ・仕上がり・工具負担)
能登ヒバはヒノキ材より堅い樹種ですが、その粘り強さから割れにくく、鉋仕上げで滑らかな光沢を得られます。ヒバ材は曲がりやすくねじれやすい性質があるため、製材・乾燥工程での品質管理が重要です。一方、スギはヒノキやヒバに比べて柔らかく、板の切断や加工時の工具負担が少ない(加工性が高い)という特長があります。能登ヒバであっても適切に乾燥・養生すれば寸法安定性は高くなりますが、乾燥条件が不適切だと反りや割れを生じやすい点には留意が必要です。
耐水性・寸法安定性
能登ヒバは湿気に対して非常に強く耐久性を発揮します。乾燥・調湿性にも優れ、現地(奥能登)の気候では含水率17~18%程度で十分に安定すると報告されています。ただし、乾燥地帯では施工後に収縮による隙間が生じる事例もあるため、流通工程でも含水率管理を徹底する必要があります。一般に、ヒノキ・ヒバ系はスギより収縮が小さく寸法安定性が高いとされ、能登ヒバもそれに準ずる性質を持っています。
香り成分・抗菌性などの化学特性
能登ヒバはヒノキチオール・β-トラピネンなど独自の芳香成分を豊富に含み、その香りにはリラックス効果も期待されます。これら成分は強力な抗菌・防腐作用を持ち、シックハウスの原因物質(ホルムアルデヒドなど)やアンモニア臭を低減する消臭効果が報告されています。実験では、能登ヒバが含む精油成分がアンモニア臭の脱臭やカビ・菌の増殖抑制に有効であることが示されており、トイレや湿気の多い水回り空間への利用にも適しています。さらに、蚊やゴキブリなど多くの害虫忌避効果も確認されており、住宅の健やかな住環境づくりに寄与します。
樹種別性能比較表
下表に能登ヒバ、スギ、ヒノキの主な性能指標をまとめます。曲げ・圧縮・引張強度やヤング係数は国交省告示値や実測値、比重は代表値です。耐朽性区分はJAS基準、耐蟻・防虫性は前節の説明に基づく相対評価です。
樹種 | 比重 (kg/m³) | 曲げ強度 (N/mm²) | 圧縮強度 (N/mm²) | 引張強度 (N/mm²) | ヤング係数 (N/mm²) | 耐朽性 (JAS) | シロアリ耐性・備考 |
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能登ヒバ | 0.50 (目安) | ≈30 (実験値) | ≈23 (実験値) | ≈17 (実験値) | 9.8×10³ | D1 (大) | ◎(強い; ヒノキチオール含有) |
スギ(国産) | 0.38 | ≈25 (基準値) | ≈19 (基準値) | ≈16 (基準値) | 7.4×10³ | D1 (大) | ○(標準) |
ヒノキ(国産) | 0.44 | ≈27 (基準値) | ≈21 (基準値) | ≈16 (基準値) | 1.05×10⁴ | D1 (大) | ○(標準) |
各数値の出典: 強度値は国交省告示(基準値)および能登ヒバの実験値ishikawanoki.ishikawa-moriren.jpmokkyou.com、ヤング係数は実測平均値mx-eng.jp。耐朽性区分はJAS規格に準拠。
以上の通り、能登ヒバは一般のスギやヒノキと比較して曲げ・圧縮強度で優れ、耐朽性・耐蟻性・抗菌性でも高い水準を示す木材です。これら特性を総合的に勘案すれば、住宅の土台・構造材から内装材・床材まで、用途に応じて能登ヒバは安心して採用できる素材であることが分かります。