
森から家まで一通り
中島木材工業 大月博勝さんに能登ヒバ材振興の取り組みと、普段のお仕事についてインタビューしました。
――製材所では珍しく木材の小売もやっていらっしゃるそうですね
大月博勝(以下、大月):はい、製材所ですので普段は丸太を加工して工務店や建設会社に納めています。小売というのは本当に一般の個人のお客さんに向けて資材を販売しているんです。多くの製材所ではやっていないと思いますが、当社では昔からずっと続けています。といってもホームセンターも普及しましたし製材所で材料が買えるということはあまり知られていないのでそこまでたくさんの人が来るわけではないです。あとは、とあるきっかけからレーザー彫刻機を導入しまして、木に文字や写真を彫ってキーホルダーなどのグッズを販売しています。グッズはほとんど能登ヒバで作っています。大工仕事もやっていて震災のあとは奥能登各地に瓦を直す応援に行きました。近隣の木を育てる林業者とも契約をしています。林業者といっても数人ですから大規模なものではありませんが、自分たちで良い木を切って製材、建築工事まで一通りできるようになっています。
――一貫して木を扱う体制になっているんですね。地域との深いかかわりを感じます。
大月:地域との関わりといえば、漁業ともつながっています。当社のある中島町(七尾市)はカキの養殖が非常に盛んなところですが、出荷用の木箱を作っています。冬場の最盛期には3ヶ月で1万個ほど出ますね。材料は角材を作るときの端材を使っていて発泡スチロールよりも安くできるのでありがたがられています。私もカキは大好きなので、そういうところで関わりながらたくさんのお店を回っています。
――うらやましいです。ところでレーザー彫刻のキーホルダーなどは主に能登ヒバで作られているとのことですが、能登ヒバの魅力とはどういうところでしょうか
大月:水に濡れるところにはとても強いですし、葉を刺身に載せれば腐りにくいなど抗菌作用があることも強みでしょうね。泥水に20年浸かっていても腐らないと聞いたことがあります。だから台所や地面に近い家の土台などには能登ヒバを使ったほうが良いんですよ。今では大手さんが集成材(板)を作っていますから、お互いに融通しながらお客様におすすめしています。板ですと大きなカウンターテーブルやクローゼットの棚にも使えますよ。丈夫さでも優れていて、地震の被害も少ないような気がします。

オンラインゲームにも広がる
――逆に難しいところもありますよね
大月:製材したものを乾燥させるのに時間がかかります。というのも急いで乾かすとすぐに割れてしまうのです。10日くらい時間をかけてやらなければうまくいきません。あとは商品をどうやってお客様のほしい形にしていくかだと思います。実は先ほどのレーザーの機械はもともとオンラインゲームのキャラクターグッズを作ってほしいと言われて導入したんです。取引先がゲーム制作会社と仲良くしていて紹介されました。そのゲームの内容が日本の話だったので、やはり日本らしい樹種ということで探していたそうです。今ではノベルティグッズの注文も来るようになりました。建築材としてはやはり使う場所の気候に影響されます。実は関東と関西では気温や湿度がまったく違っていて、適切な製材をしないと気候に合わず曲がったり割れたりしてしまうことがあるのです。そういうところの見極めをしていかなければなりません。
――製材業がオンラインゲームとつながるとは意外でした。能登ヒバをもっと広めていくためには何が必要だと思いますか。
大月:私は高校で林業を学んで、自宅もログハウス風に木を使って建てました。趣味で漆器の木地(漆を塗られる前の段階で木を削り出す作業のこと)を作ったこともあります。やっぱり能登ヒバはまだ知名度が低いので全国的に有名になっていけばこれまでと違った展開があるのかなと思います。ヒバといえば東北が有名で、能登のものは知らない人が多いですし。あとは地元の人に使ってもらうことも大事だなと思っています。例えば家は大手メーカーで建てたけれど小上がりだけは能登ヒバで作ってほしいというお客様もいました。触れても安全でぬくもりある能登ヒバ材を、多くの人に伝えていきたいです。
――本日はありがとうございました。
