
林業遺産「能登のアテ林業」
- 林業遺産とは
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2023年5月31日、「能登のアテ林業」は林業遺産に登録されました。
林業遺産は、(一社)日本森林学会が林野庁の後援を受けて全国各地の林業発展の歴史を示す土地や施設、資料などを「未来に残す遺産(Heritage)」として登録する取り組みで、 これまでに京都の北山林業や奈良の吉野林業など、国内50件以上が登録されています。
林業遺産のシンボルマーク((一社)日本森林学会)
- 登録内容
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名 称 能登のアテ林業(No.49)
成立年代 江戸時代中期
認定対象 アテ林業地の林業景観
※輪島市、珠洲市、穴水町、能登町、七尾市内のヒノキアスナロ人工林
苗木生産・複層林施業の技術体系
林業記念地としての元祖アテ
- アテ林業のはじまり
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アテ林業の起源にはいくつかの説がありますが、DNA解析や花粉分析の結果、能登半島には昔からヒノキアスナロの天然林があり(今でもわずかに現存)、現在の能登で見られるアテはその子孫だと考えられています。
アテの植林の歴史は江戸時代までさかのぼります。当時、北前船の寄港地だった能登の港からは、丸太や板、漆器など沢山の木材、木製品を出荷しており、人々はその材料となる資源を増やすため、アテの森づくりを始めたと考えられています。現在、能登で見られるアテの大部分は人の手で植えられた「人工林」で、能登の先人の努力によって築かれた「遺産」なのです。
- アテ林業独特の技術
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アテ林業には、他の林業地では見られない独特の森づくりの技術が伝わっています。
- 伏条更新
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アテの枝を地面に這わせて発根させ、新たな個体として成長させる方法
- 空中取り木
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アテの枝をミズゴケで包み、発根を促して苗木を作る方法。
- 択伐
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立木を一度に全て収穫せず、利用径級に達したものだけを伐採する方法。(↔皆伐)
- 樹下植栽
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日陰に強いアテの性質を活かして、林の中を部分的に伐採し、その跡地にアテを再造林する手法。
- 択伐林施業
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択伐と伏条樹下植栽を繰り返すことで、同じ山で様々な大きさ、樹齢のアテを一緒に育てる方法。
- 林業記念地 元祖アテ
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輪島市門前町浦上の集落にある民家の庭に、樹高30m、樹齢470年を超える2本の古いアテの木が立っています。
これは、「元祖アテ」または「アテの元祖」と呼ばれ、石川県内で最も古いアテの個体として、県の天然記念物に指定されています。元祖アテには、戦国時代にその家の先祖が東北から持ち帰ったという伝承も残されています。
- アテと能登の文化
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強度と耐久性に優れたアテの木は、湿気の多い日本海側では建築や身の回りの道具に多く使われ、人々の生活に寄り添う身近な樹種の一つでした。
能登半島に伝わる伝統工芸や祭礼行事は、世界農業遺産「能登の里山里海」の構成資産であり、アテは地域の文化の発展を支えてきました。
- 輪島塗
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日本3大漆器とも呼ばれる「輪島塗(国重要無形文化財)」には様々な技法が用いられますが、アテは、重箱やお盆などの板で作る「指物」や、薄い板を曲げて丸い容器などを作る「曲げ物」の木地として使われています。また、輪島塗の箸や、漆を塗るへらの材料にもアテは使われています。
- キリコ祭り
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キリコ(切子灯籠)は、祭りの神輿の先導として担がれる巨大な法灯で、能登の祭りの代名詞ともなっています。アテは、キリコの柱や担ぎ棒など主要な部材に使われています。