
商業施設やテーマパークにも木を届ける
日本海側最大の貨物取扱量を誇る金沢港。そのお膝元に広がっているのが木材業者が集積する「木材団地」だ。フルタニランバー株式会社は、この地で古くから木の魅力を発信してきた事業者のひとつ。業界ではあまり見かけないカタカナの社名と興味深い事業内容にひかれて、古谷隆明代表にお話をうかがいました。
――さっそくですが、古谷さんとフルタニランバーのお仕事についてお聞きします
古谷隆明(以下、古谷):はい、フルタニランバーは木材の流通業の会社です。といっても建物の柱になるようなものはあまり扱っていなくて、いま多いのは内装材とか目に見える部分の木材ですね。最近では建築以外の取引も増えています。例えば学校で使う跳び箱や平均台、授業で使う教材の材料もありますし、身の回りの家具や雑貨などにも引き合いが増えています。世界にはたくさんの木がありますが当社でも国内外約150種類くらいの木を揃えて、各分野のお客さんに適した提案を行っています。
――木を扱う企業としては地元でもかなり歴史が長いと聞きました
古谷:実はルーツが船大工なんです。明治期に始まって120年くらいになります。そこから数えると私が5代目になりますね。創業時はまだ日本海の舟運が盛んな時代で北前船などを作っていたそうです。戦後は木材商として建築材の丸太を地元業者に卸していました。今はやっていませんが当時は製材もしていたんですよ。
――船を作っていたとは驚きました! 製材から内装材にシフトしたのはなにか理由があるのでしょうか。
古谷:やはり建築材としては大口の需要が少なくなってきたことですかね。以前は工務店と商談してまとめて買ってもらうというのが当たり前でしたが、最近は必要な木材をこまめに出荷するということが増えました。建築業者の人手不足もあってなるべく仕上がった木材を求める声も大きくなっています。床板や作り付けの棚など造作(ぞうさく:内装部品のこと)を頼まれることも増えたので設備を充実させていったというわけです。この会議室の机も板をくっつける加工まで自社でやっています。有名な家具メーカーや、商業施設・テーマパークなどの什器や木部材を作っている木工所とも取引をしているんです。

荒々しさが人気に
――おもしろいですね!そこも掘り下げたいところですが、そろそろ能登ヒバの話に戻さなくては(笑)フルタニランバーさんでは能登ヒバのお取り扱いもあるわけですよね
古谷:もちろんです。以前から取り扱う木材のひとつとしてありましたが、私が代表になった2019年からは木材業界の活性化に向けて事業リリースをしてきました。地域材の強化とブランディングを行っています。ちょうどコロナ禍で木材輸入が激減した時期です。いわゆるウッドショックですね。世界中の木を揃えているのが私たちの強みですが、それと同時に今後は国産材と活用促進やサプライチェーンの円滑化にも力を入れていかなくてはならないと考えを改めました。特に地元で育つ木材というのは自然環境や人々の暮らしに関わってきますから、地域の社会課題と向き合うきっかけにもなりましたね。
――それで地元の能登ヒバに注目したわけですね。販売方法などでなにか変えたところはありますか?
古谷:能登ヒバは水に強かったり消臭効果があったりとよく言われています。ただそれ以上に新しい使い道を開拓しようと思いました。能登ヒバの価値として新しく音響効果を実証するべく、能登ヒバで楽器を作る「ATENOTE(アテノオト)」という事業を始めました。バイオリンやギターをはじめ、和楽器や音響機器まで様々なものを作っています。どんな木でも数十年、長ければ100年以上かけて育つわけですから手軽に売るだけでいいのだろうか、もっと素材の素晴らしさや生産地のストーリーを一緒に届けることはできないかと手を尽くすことにして、我々にも身近な「音楽」や「楽器」を通じて皆様に伝えていくことを考えました。フルタニランバーは材料を届ける会社ではなく、木の価値を届ける会社になるんだと企業コンセプトを掲げています。
――工場内にも楽器演奏ができるスタジオがありましたね。アテノオトについては別の機会にお話をうかがいます。では反対に能登ヒバの課題はどんなところにあるでしょうか?
古谷:知名度をあげていくことかなと思います。私達も楽器をミュージシャンに貸し出して魅力発信をしていますが、大事なのはたくさんの事業や製品が生まれ、全体的にプロダクトの数が増えていくことかなと思います。もっと全然違う業界からも能登ヒバの商品がどんどん出るようになれば面白いです。

――全国にそんなプロジェクトがうまれると素敵ですね。ほかに今後やってみたいことなどはありますか。
古谷:あとはもっと他の地域材や木材ではない素材との横連携をしたいと思っています。会社や県の単位ではなく、その地域一帯でよく使われる木材の広がりがありますが、当社では富山の氷見杉(ひみすぎ)を扱う岸田木材株式会社(富山県氷見市)、福井の越前マツを扱う水口木材株式会社(福井県福井市)と共に「キノワホクリク」という木材の広域連携もスタートさせました。林業の課題は日本共通なのでみんなで肩を組んで取り組んでいきたいと思ています。また「crosswood」という他の素材とコラボする事業も行っています。木材業界だけではなく他の業界とも一緒になることで学ぶことが多いだろうし、たくさんの方に知ってもらえると思っています。当社としても能登ヒバを活用して、もっと木の価値を届けていきたいと思っています。
――縦軸連携だけではなくて横の連携も行っているのですね!良いお話をありがとうございました