株式会社長谷萬 鈴木康史様(執行役員・開発本部長兼商品開発部長)インタビュー
― アテ・能登ヒバの素材力 × DLT技術で描く地域資源の未来

Q1. 御社のことをあらためて紹介してください。事業の背景も含めて教えてください。
鈴木様:
私たち株式会社長谷萬は、創業から100年以上の歴史を持つ木材関連企業です。材木商を祖業として、現在は木材の調達から加工、建築施工、木製品の企画・販売まで一気通貫で行う機能を有しています。主な事業は木材卸売・加工・建築、建材・木製品の企画販売で、木の価値を高める取り組みを広げています。
木材の専門家として、ただ商品を売るだけでなく、地域資源を活かした社会課題解決型の木材活用にも力を入れています。
Q2. 鈴木様ご自身のご経歴と、現在の取組について教えてください。
鈴木様:
実は、最初から木材業界にいたわけではありません。新卒では機械設計会社に入り、主な素材はスチールのいわゆるメカニカル分野の設計に携わっていました。工業製品の設計を行う中で、ものづくりの基礎や構造の考え方を学びましたが、次第に「より環境や人に近い素材に関わりたい」という思いが強くなり、木材を活用する住宅メーカーへ転職しました。
住宅メーカーでは、ログハウスやドーム型の住宅など、様々な木造住宅商品の企画開発に携わりました。国産材だけでなく輸入材にも触れながら、構造材、仕上げ材、家具に至るまで様々な木材や木製品を活用しながら、 “住空間”を実現する経験を積みました。住宅は一つの空間の中に様々な木材の使い方が含まれていますので、「木をどう使えば価値が生まれるのか」を総合的に考える視点を養うことができました。
その後、木材そのものの可能性をより広い視点で追求しそれを事業にしたいと考え、株式会社長谷萬に参画しました。現在はDLT(木ダボによる積層材)などの新しい木質材料の国内普及と事業化や、地域材の価値創出に取り組んでいます。特に能登ヒバのような地域の木材資源について、生産地と都市のマーケットにつなぐ役割を担っています。
単に木材を販売するのではなく、「どのように地域と連携しどう使えばその木の価値が最大化されるのか」を企画の段階から提案すること。それが、これまでの経験を通じて培ってきた私の強みであり、いま取り組んでいるテーマでもあります。
Q3. 「能登ヒバ(アテ)」との関わりはどうして生まれたのですか?
鈴木様:
能登との関わりは、当社が能登半島地震や豪雨災害で被災した地域の復興支援として、DLTを用いた木造仮設住宅建設プロジェクトに参画したことがきっかけです。
その延長線で、木材に関わる企業として能登の復興に「能登で育つヒバ材を有効活用できないか」と考え、能登の創造的復興サポーターになりました。



近年では、能登ヒバを核とする「アテ林業・能登ヒバを活かした能登の創造的復興」リーディング・プロジェクトにも採択され、地域素材の新たな付加価値化に力を注ぎ、素材としての価値を見直す取り組みを進めています。
Q4. 「DLT」とは何ですか?また、能登ヒバとDLTの組み合わせにどのような可能性を感じたのでしょうか?
鈴木様:
木ダボで接合する積層材に「DLT(Dowel Laminated Timber)」という技術があります。もともとは約50年前にヨーロッパで生まれた木質材料で、接着剤や金物を使わず、木ダボのみで板材を一体化させる構造が特徴です。
この技術は非常にローテクで、中小の木材事業者でも製造が可能です。また、日本各地の地域材を活かしながら、大断面の木質パネルや“木の塊”をつくることができます。建物へのカーボンストックが期待される中で、地域の木材資源を活用でき、中小の木材事業者が活躍できる有意義な技術であると考え、私たちは数年前から国内導入と普及に取り組んできました。
DLTは針葉樹を素材とする技術です。日本ではスギやヒノキをはじめ、さまざまな針葉樹がありますが、能登ヒバもまた、豊かな香りを持つ針葉樹の一種です。その特性を活かし、DLTの技術を通じて能登の復興に貢献できないかと考え、能登ヒバを用いたDLTの取り組みを開始しました。
能登ヒバは高級家具や仕上げ材としての価値が高い反面、丸みがある材やAグレードに満たない材は建材として敬遠される傾向があります。敬遠された素材はチップ等に加工できればよいのですが、加工する手間のほうがどうしても大きくなってしまい、多くの材が燃やされるか処分されているという現状をお聞きしました。DLTはAグレードに満たない素材が不均一な材でも木の表情として活かせるため、これまで価値を見出しづらかった部分に光を当てることができます。
また、接着剤を使わないため環境負荷が小さく素材本来の特性がそのまま出せるのも、能登ヒバの魅力を引き出す上で大きいです。
Q5. 実際の製造や製品化はどのように進んでいますか?
鈴木様:
地域の製材所や組合と連携し、能登ヒバを活用しDLTを能登でつくるトライアルと検証を開始しています。DLTの製造に大型の設備は不要で、地元の工場で製造可能であることを確認しています。
現時点では家具(椅子・ブース型の一人用ボックスなど)や小物、試験的な建材用途としての展開を行っています。これらは香りや木の質感が直接体感できるプロダクトになっています。
Q6. 能登ヒバの素材としての「特性」について詳しく教えてください。
鈴木様:
能登ヒバは、
・独特の木の香り
・良好な耐久性・抗菌性
・自然な色調と木目の美しさ
が特徴です。これらはそのままに、DLTのように素材の個性を活かした使い方が合っています。ただし、木材としての性質(ねじれやすさ、湿度変化による収縮・膨張など)があるため、設計時にはそこへの配慮が必要です。
Q7. 供給体制や地域側の課題についてはどう考えていますか?
鈴木様:
能登地域の林業はまだ復興途上で、路網の再整備や素材供給量の回復が課題と聞いています。能登ヒバは杉に比べると希少材であるため、量を無理に追求するのではなく、地域の林業と歩調を合わせた段階的な活用が大切だと考えています。
そのためにも、設計者や消費者が素材の背景(人・山・森の状況)を理解することが重要です。
Q8. 市場(設計者・メーカー・都市消費者)への伝え方はどのようにしていますか?
鈴木様:
石川県内外で設計者向けのワークショップやセミナーを開催し、DLTの制作実演を行っています。木材の特性と活用法を実際に触れて理解してもらうことで、単なる“良い木”というイメージではなく、使い方や背景を伝えるアプローチを重視しています。
Q9. 今後の展望についてお聞かせください。
鈴木様:
DLTによる家具や建材製品を拡充しながら、地域での安定的な供給・製造体制の基盤づくりに力を入れていきたいです。
最終的には、
地域生産者 × 設計者 × 都市マーケット
を結びつけるハブとなり、素材の魅力・背景・使い方まで含めた価値を創造していくことが目標です。